平屋の住まいについて
2011年9月に1件の問い合わせメールが届きました。
車椅子でも自立して生活できる家が設計できますか?
平屋の設計の経験はありましたが完全なバリアフリーで車椅子での生活が前提の住宅の設計は初めてでした。
直接話を伺いに行くと段差の多いご実家で親に手伝ってもらいながら不便な生活をされていて、当時29才だった僕よりも若いクライアントからの切実なご依頼でした。
「車椅子でもオシャレで自分らしい生活ができるデザインの美しい家に住みたい」
最初の打ち合わせの時に言われた一言です。この言葉に火がつきなんとか期待に応えたいと
必死に設計し翌年の2012年10月に「近江八幡の家」が竣工しました。
実際に住む方のためだけに考えて設計したオンリーワンの注文住宅ですが
車椅子で生活される方は勿論、高齢者世代、若い子育て世代の方にも暮らしやすい
普遍的な空間が実現できたのではないかと感じて
2014年にグッドデザイン賞に応募したところ受賞することができました。
審査員の建築家からの講評も勇気付けられるものでした。
近江八幡の家の審査委員の講評
車椅子の居住者のために、動線計画や浴室のしつらえ等、非常に丁寧に設計されており、しかもそれがとても高いデザイン性を備えている点が高く評価できると思います。この住宅はあくまで一人のクライアントとの対話から生まれたものと思いますが、これからの高齢化社会を迎える戸建て住宅として、様々なヒントを与えてくれる提案になっていると思います。
担当審査委員| 古谷誠章 (ユニット長) 篠原聡子 難波和彦 日野雅司 松村秀一
当初のクライアントからの希望が実現でき、受賞のお知らせに喜んでいただけたことがとても嬉しかったです。
これをきっかけに、高齢者世代、子育て世代の方からの平屋の設計依頼も増えてきましたが
約10年後の2022年春に再び車椅子で生活されている方の平屋の設計依頼がありました。
設計者を探すのに時間がかかったこと
やっと見つけたと言っていただけたこと
これまで事例の一つとしてホームページにアップしていただけでしたので
車椅子で安心して生活できる家の設計者をお探しの方
平屋の家の設計者をお探しの方の目に届けばと思ってこちらをアップします。
基本的に全国どこでも対応可能ですので
お気軽にお問い合わせいただければと思います。
2022年11月 武田邦康
近江八幡の家(車椅子生活者のための平屋住宅)について
田を造成した分譲住宅地の一角に位置します。
南東面を道路とし、間口10m、奥行き20mの長方形の約65坪の敷地です。
北面の田や畑も将来的に造成されて住宅地になる予定の周辺環境です。
車椅子で生活されるクライアントのための完全バリアフリーの平屋の住宅。単純な快適性を超えた日常生活での豊かさを感じられるよう建築空間によってお手伝いできないかと考えました。ご要望は①車の乗り降りから住宅内部まで雨に濡れないこと。②生活の大半を過ごす個室をメインとすること。③中庭は日常の手入れが難しいため家の中にテラスが欲しいこと。の3点と共に、キッチンや洗面、トイレ、浴室などは不自由なく使えるよう全てオーダーでの細かなご要望に応えることです。
平面は8m×10mの長方形であり、4mを頂部とする切妻屋根の三角の箱の中を大きく3枚の壁によって個室、ダイニングキッチン、インナーテラス、水回りの4つの空間ゾーンに分割します。単純な操作で複雑な空間を思考した結果、大きなワンルームスペースを壁によって異なる大きさの空間に分割し、ガラスや引戸によって緩やかにつながる空間としました。住まい手が単身であることから防犯やプライバシーに配慮して外部からは単純な黒い箱として見えますが、内部は太陽によって自然の変化が感じられる明るく開放的な空間であり、空間としての強度のあるものを目指しました。車椅子での生活を前提条件として設計したものの、平屋で作る普遍的な住まいへの一つの答えとした空間が実現しました。