タクタク一級建築士事務所 滋賀県・京都府の建築設計事務所/建築家 滋賀・京都で建築家と建てる家

「人と環境」問う建築家の第一歩


黒の金属板と生木の色のコントラストが印象的な外観。玄関わきの小さな看板に、何の店なのか興味がわく。近江町顔戸の新興住宅地に6月開店したシンプルでモダンな趣の和風料理店。昨春に県立大(環境・建築デザイン専攻)を卒業し、建築家として歩み始めたばかりの武田邦康さん(滋賀県彦根市)が設計した。

多くのベテランの職人がかかわる建築現場で指揮をとり、「建築家」として完成させた第一作。小さな面積の建物をいかに奥きを出して広く見せるか。人の動きや、厨房と客の視線などを綿密に計算し、設計した。「施主に喜んでもらえたことが、設計した僕にとっても何よりの喜び」と話す。

県立彦根工業高校の出身。高校時代は、ただ漠然と建物を造る仕事がしたかったという。「大学で自らの創造を形にするという『ものづくり』の発想に刺激を受け、建築により深い興味を覚えた」

大学卒業時の課題として取り組んだ「卒業設計」は、人と環境の関係を見つめ直し、建築からの発想で、どう環境を再生させていくかを考えた。伊吹山に残るセメント工場の採掘場跡地を利用し、岩肌がむき出しになり『傷跡』のようになった山に。景観にも配慮した研修施設を設計、ここに集う人々によって緑化再生を図るという「伊吹鉱山再生計画」。作品は日本建築家協会が主催する全国学生卒業設計コンクール(2004年)でベスト30に選ばれた。

「少しでも早く現場で経験を積みたい」と、設計士を目指す学生の多くが進む大学院や建築事務所には所属せず、たった一人でヨーロッパ各国を一人で巡る3ヶ月間の旅へ。「何かを始める前に、実際に見たことのないヨーロッパの建築をこの目で見なければと思って、空間は体験しなければわかりませんから」。昨秋に帰国した後、店舗設計の依頼が舞い込んだ。

初めての設計を終え、5月から母校の依頼で臨時講師に。連日、教壇に立っており、今は設計の仕事は一時休止中。「自分で考えたものが形になる面白さを教えたい。高校生に教えることは僕にとっても一つの勉強」。他人とは違う道を歩みながら、一流の「建築家」を目指す。

将来は、「人が居心地がいいと思える空間、時間の流れを感じられる空間を設計したい。今後も地元、滋賀を拠点に発信できたら」。(文・読売新聞編集部)

読売新聞朝刊
2005年7月23日



2005年7月23日
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